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執筆者の写真Yugo Morikawa

母を悼む。

更新日:2022年1月31日

1月13日。

母が他界しました。


I can't believe that

my mother passed away less than two years after my father's death.

I'm still in sadness and confusion.


r.i.p


父がまだ駆け出しの水墨画家で 僕がまだ4歳位の頃、中央大学の近くにあった とある「施設」の社員寮に住んでいた事があった。


登場人物の殆どが車椅子に乗っていて 山奥に隔離された様な施設の

その小さな空間が、僕の世界の原風景となった。


忌引き休暇をもらってぽっかりと空いた時間に

プチ(犬)を散歩に連れて行くが

何かを察しているのか、なかなか帰ろうとしない。


そこで

幼少の頃歩いたその「施設」から最寄りの商店街までを結ぶ ささやかな山道を巡ってみようと、プチを担いで行ってきた。


雨の日に大きなヒキガエルが 通せんぼして、母と2人で震えていたのを思い出す。


と言うか、このシーンを思い出したから

わざわざこうやって歩いてきたのだ。

歩かずには、いられなかったのだ。


母はよく ユーゴは昔のことをよく覚えているね と言っていたが本当にそうだと思う。


僕の原風景はすっかり更地になって、枯れ草に埋もれていた。



1月13日。

母が他界しました。


父と母、

いつも一緒で仲が良い2人でしたが

父が亡くなって2年と経たないうちに

こんなにも早く、父の元に行ってしまうなんて...。


いまだに信じられず、混乱し、悲しみ、

そして、深く後悔しています。



僕は母を、もっと強い人間だと思っていたのだ。


水墨画家だった父よりも、むしろ母の方が

自己プロデュース能力に長けていた。


自費出版した詩集が一部で評判になり

晴れて商業出版されたり...

小さな庭を開墾して始めたハーブ園には

何度か新聞社が取材に来たりした。


そんなバイタリティにあふれた母だから

父の死さえもドラマチックに乗り越えて

また僕らを巻き込んで、なにか新しい事を始めたりしながら

逞しく、長く、生きてくれるものだと思っていた。



僕は、母が作ったハーブの庭が好きでした。


Instagramの画角にワンショットで収まってしまう

本当に小さな庭でしたが、

そこに皆で集まってお茶をしていた時間を思い出すと

この喪失の最中ですら、どこかホッコリとしてしまうくらいに...


しかし、父を看取った後の母は

ハーブ園もハーブの教室も、すっぱりと辞めてしまっていた。


90歳になったら、また本を出版するの...だとか

素敵に歳を取って行くために「魔女見習い」になるの...だとか

夢みがちで不思議な事もチョイチョイ言うけれど、

自信に満ちていた母の世界はしかし、隣に父が居てこそ成り立っていたのだろう。


父の一周忌を境に、ショーゴ(弟)の言葉を借りれば

「魔法が解けた様に」...病の渦に飲まれていってしまったのだ。



「ねぇやっぱり、またプチの面倒をみてくれない?」


そう言われたのは、皆で年越しをする為に

実家に帰った時の事だ。


懐にプチを抱いて、ソファーで微睡んでいた僕の頭を掻きながら

か細く、しかし意を決した様に母は言った。


昨年秋頃、

2ヶ月ほどの入院を経て、回復に向かっていた様にも見えた母は

まだ犬の世話をするのは少しシンドイのだと言う。

入院していた時の様に、また僕に犬を預かって欲しいという訳だ。


「えぇー。でもプッチいないと寂しいんじゃ無い?良いの?」


これが母と「リアル」に交わした最後の会話になってしまった。


母が1人で寂しく無い様に、

預かったプチの様子をリアルタイムで見れる様に、

古いiPhoneを留守番カメラにしてリモート中継する事にしたのだが

パソコンに疎い母とメールのやりとりをしていた弟から

母からの連絡が途絶えたとの知らせが、

様子を見に実家に行ってみると、真っ暗な家の中で

母は冷たくなっていた。


あの時、

僕が額面通りにプッチ「だけ」を連れて行くのではなく

母も一緒に連れて行ってあげたら、違う結果になっていたんじゃないか?


後悔の念が

ずっと頭の中をぐるぐるぐるぐる回っています。



二年前に父を看取った経験から

この頭の中の「ぐるぐる」は逃れようの無いものだと、覚悟している。


冷たくなった母を発見した時の衝撃や後悔、懺悔の気持ち

感謝の気持ち。ごちゃ混ぜになって大変だけど、

何度も何度も反芻する内に、心の受け皿が鍛えられて行くのだろう。


この二週間、全ての予定をキャンセルして

お役所の手続きと、プッチの散歩だけをしていました。


プッチのワガママっぷりを見ていると

母に育てられると誰もがこんな風になるんだな。とよく思います。

母のおかげで僕らは、自分の好きなものに対して正直に生きていける

感受性豊かな人間に育ちましたよ!


======


母はよく ユーゴは昔のことをよく覚えているね と言っていたが本当にそうだと思う。


僕が100歳の老人になって

今日の事が「昔」になっても

母が作ったハーブの庭を鮮明に記憶していよう。

そして

母が目指した「素敵な老人」になってやろう。


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今まで、ありがとうございました。

父さんと、どうか安らかに。






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